「アルバイト」の台湾労働法上の権利(「一例一休」、残業代および有給休暇)
目次
- 1、「アルバイト」は労働法上の労働者である
- 2、「アルバイト」にも一例一休の適用がある
- 3、「アルバイト」祝日残業代の計算は正社員と同じ
- 4、「アルバイト」にも特別休暇を与えなければならない
- 5、コンプライアンス上の対応・終わりに
1、「アルバイト」は労働法上の労働者である
雇用主は、ビジネス上の必要性に応じて「アルバイト」を雇うことがよくみられます。 しかし、雇用主は、「アルバイト」に労働基準法が適用されるかどうか、また、「アルバイト」を雇用する際に労働基準法上どのような点を注意すべきかについて、頭を悩ますことが多いようです。
正社員ではない「アルバイト」には、労働基準法は適用されないと思うけど、どうだろう? 残業代や休暇を与える必要もないし、労働保険に加入させる必要もないし、いつでも辞めてもらっていいんだよね?
違います。 労働時間が短いという点以外は正社員と同様で、残業代や特別休暇、退職金なども通常の従業員と同様に受け取ることができます。この部分でくまさんのように考えてしまう雇用主が多いようです。
あられ。(◎-◎;)!! うち残業代なんて出してないなあ。しまった!
心配ございません。今日の記事はくまさんのために作成しました。
ほほ。楽しみしているぞ。
2、「アルバイト」にも一例一休の適用がある
いわゆる「一例一休」は、労働者に7日に一回の休息日(中国語:休息日)と定例休日(中国語:例假)が与えられる、とのことです。正社員と区別なく、「アルバイト」も「一例一休」の適用があります。
定例休日と休息日の違いは何だろうね。専門用語がいっぱい出てもわからないなあ。
失礼しました。その違いは、労働者に残業をさせることができるかどうかの要件が異なることです。 休息日は、労働者の同意があれば残業をさせることができます。一方、定例休日の場合は、同意があっても「事変または突発的事件が発生し、労働者に残業をさせる必要がある場合」のみ残業が可能です。
なるへそ。え?でも定例休日に残業するってことは、元々定例休日に出勤があるっていうこと?
台湾では通常労働時間外の勤務時間は全て残業となり、定例休日・休息日の出勤は休日出勤ではなく、残業と言います。また、定例休日と休息日では、残業代の計算方法に違いがあります。詳細は、以下の表をご参考ください。
第1-2時間 | 第3-8時間 | 第9-12時間 | |
休息日出勤 | 時給×1.34×時間 | 時給×1.67×時間 | 時給×2.67×時間 |
定例休日出勤 | 時給×時間 | 時給×2×時間 |
定例休日と休息日についてはわかったけど、具体的にはどんな感じになるのかなあ?
心配ございません。実例を用意しました。
月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 |
1 | 2 | 3 | ||||
4時間 | 非出勤日 | 4時間 | ||||
4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
5時間 | 10時間 | 6時間 | 2時間 | 定例休日 | 休息日 | 祝日休日 |
11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 |
祝日休暇 | 非出勤日 | 4時間 | 2時間 | 2時間 | 2時間 | 2時間 |
18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 |
2時間 | 2時間 | 2時間 | 非出勤日 | 4時間 | 4時間 | 4時間 |
ラーメン屋で働く太郎は、時給158元で、出勤スケジュールは上記のようになっています。太郎さんの出勤スケジュールを検討することを通して、労働法に基づく「アルバイト」の様々な権利を確認しましょう。
- 一例一休について
10/3~10/7まで5日間連続して勤務したため、10/8に定例休日、10/9に休息日が与えられています。 合法です。 - 休息日の出勤について
10/18の出勤については、休息日の時間外手当(158×1.34×2時間)を支給する必要があります。 - 定例休日の出勤について
太郎は、10/13から10/18まで6日間連続して勤務したため、10/19を定例休日にしないといけません。「天災、事変または突発的事件が発生し、労働者に残業をさせる必要がある」の要件を満たしていない場合、違法な出勤となります。
3、「アルバイト」祝日残業代の計算は正社員と同じ
祝日に正社員を出勤させるとコストがかかるなあ。「アルバイト」を雇った場合、正社員と同じ給料を支払わなければならないの?
祝日は国から与えられた権利であり、雇用者は祝日に事業活動を行い、利益を得たい場合、高いコストを支払うべきです。「アルバイト」を雇うことで労働法を回避できるのであれば、企業はきっと正社員ではなく、従業員全員を「アルバイト」の形で雇うようになるでしょう。労働法とは、労働者の権利を損なうような状況を避けるため作られた法律です。
では、太郎の出勤スケジュールに戻り、実例を見てみましょう。
太郎が10/10(国民の休日)に出勤した場合、ラーメン屋が太郎に支払うべき賃金は以下のように計算されます。
第1-8時間 | 第9-10時間 | 第11-12時間 | |
祝日休暇出勤 | 時給×2×時間 | 時給×1.34×時間 | 時給×1.67×時間 |
4、「アルバイト」にも特別休暇を与えなければならない
いわゆる特別休暇は、(厳密でない意味で)有給休暇のようなものです。台湾では、労働者の勤務年数によって、法律上得られる最低限の特別休暇の期間も異なります。正社員と同じく、「アルバイト」にも特別休暇が与えられます。
「アルバイト」は正社員ではないのに、どうして特別休暇が与えられるの?
きっと、くまさんから聞かれると思ってました(笑)。定例休日や休息日では労働者の疲労を回復することができないため、正社員には特別休暇が与えられています。この点において、正社員であっても「アルバイト」であっても仕事をしていることには変わらないため、特別休暇が与えられます。
なるほど、しかし、勤務時間が不規則な「アルバイト」の特別休暇はどのように計算するの?
下の表を見ていただければ、すぐにわかると思います。
勤務年数 | 正社員の特別休暇 | アルバイトの特別休暇 |
6ヶ月以上、1年未満 | 3日× 8時間=24時間 | 「アルバイト」の6ヶ月間の通常労働時間÷正社員の6ヶ月間の通常労働時間×正社員の特別休暇時間 |
1年以上、2年未満 | 日× 8時間=56時間 | 「アルバイト」の1年間の通常労働時間÷正社員の1年間の通常労働時間×正社員の特別休暇時間 |
2年以上、3年未満 | 10日× 8時間=80時間 | 同上 |
3年以上、5年未満 | 14日× 8時間=112時間 | 同上 |
5年以上、10年未満 | 15日× 8時間=120時間 | 同上 |
10年以上、16日から1年ごとに1日追加、最大30日まで | 16日× 8時間=128時間 | 同上 |
例えば、太郎がラーメン屋に6ヶ月間勤務し、6ヶ月間の総労働時間が480時間であった場合、太郎の特別休暇時間は、480÷960(正社員の通常労働時間の6ヶ月分)×24時間=12時間となります。
また、労働者には病気休暇、生理休暇、結婚休暇、育児休暇などの権利があり、これらは労働基準法の関連規定に基づいて労働者に付与されます。
5、コンプライアンス上の対応・終わりに
上記を踏まえ、「アルバイト」を雇うには、正社員を雇う場合と同様に、労働基準法に従わないといけません。「アルバイト」の雇用については、「勤務時間が不規則」、「シフト制」という特徴があり、出勤日のアレンジメント、残業代の計算、または特別休暇などの休暇の付与については、かえって複雑になります。
コンプライアンス上のリスクを軽減するためには、出勤スケジュールにおいて、事前に「アルバイト」の休息日と定例休日を決めましょう。
ひとまず「アルバイト」に出勤させ、後で休息日と定例休日を決めればいいと考えてしまう雇用主もいますが、この場合、一例一休の確保ができず、「アルバイト」に違法出勤させたとみなされる可能性が極めて高くなります。 また、疑問に思う時には必ず法律顧問に確認してください。
「アルバイト」を雇うのが面倒くさいなあ。解雇しちゃおうか。
くまさんの気持ちはわかりますが、残念ですが、それはできません。「アルバイト」の解雇に関する問題については、次回ご紹介します。
※本記事は、台湾労働実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言として依拠すべきものではありません。
※労働関連法令は、元々一定の抽象性を持ち、そして様々な要素に左右されるため、主務官庁・裁判所のケースバイケースの判断となります。実際に訴訟が起こされた場合、具体的な状況に応じ、上記と異なる認定が下される可能性が皆無ではありません。具体的な法律問題について法的助言をご希望される方は当ブログ執筆者にご相談頂ければ幸いです。