台湾労働法上の「賃金」とは? 賞与、ボーナス、皆勤手当などは「賃金」の一部?
目次
1、「給与」=「賃金」?
台湾では、残業代、退職金、労工保険加入給与等級などを決める基準となる「平均賃金」は、従業員が毎月取得する「給与」(基本給、残業代、通勤手当、賞与などを含む)とイコールではありません。どの項目が「賃金」にあたるかの認定は複雑で、さらに、日系企業と台湾の給与項目に異なる部分があるので一筋縄では行きません。
この「賃金」の認定を誤り、残業代や退職金などの計算ミスを犯した場合、労働基準法違反によって罰金を科される恐れもあるので、慎重に対応する必要があります。
では、労働基準法上の「賃金」の認定の仕方を見ていきましょう。
2、賃金認定のポイントは「従業員が労働によって得る報酬」かどうか
「賃金」の定義とその補足は、労働基準法(2条3項)及び労働基準法施行規則(10条)に見られます。ただ、条文から「賃金」の意味を把握しづらいので、裁判例と主務官庁の見解を参考にしつつ、 実務上よく見られる認定基準をまとめてみました。
- 経常的給与、非経常的給与といった区分によって「賃金」かどうかの判断はできません。いずれにしても、従業員の労働によって得る報酬(従業員の評価と繋がること)である場合は「賃金」にあたる可能性が高くなります。
- 経常的給与が「賃金」にあたる可能性が高いからといって、非経常的給与(労働基準法施行規則第10条に定める項目)が必ずしも「賃金」にならないわけではありません。
つまり、「賃金」にあたるかどうかは、その給与項目の内容を踏まえた実質的な判断が必要であり、給与の名目によって決まるわけではない、ということになります。
3、実例を見てみよう
実務上よく見られる給与項目とその性質を、以下の表で説明します。
給与項目 |
性質 |
説明 |
固定給・基本給 |
通常は「賃金」 |
事業主と従業員双方とも「賃金」として認識している部分で、係争に発展するケースは稀。 |
時間外手当(残業代) |
通常は「賃金」 |
残業代は通常勤務時間外の労働によって得る報酬なので、「賃金」にあたることが明らか。 ※非経常的給与と看做し、「賃金」から除外して「平均賃金」に計上しないケースは少なくないので、要注意。 |
皆勤手当 |
通常は「賃金」 |
無欠勤ということは、従業員の評価と関係があるので、「賃金」にあたる可能性が高い。 ※残業代と同様に非経常的給与と看做し、「賃金」にあたらないと誤解されるケースが多い。 |
職務手当 |
通常は「賃金」 |
従業員の職務内容によって支払うものなので、「賃金」にあたる可能性が高い。 |
食事手当 |
「賃金」にあたる可能性が高い |
会社は節税のため、労働者の基本給の一部を食費として支払う場合、当該食事手当は「賃金」の一部。 |
通勤手当 |
場合によって異なる |
支払方式・額により通勤手当の性質が変わりますので(例えば、額が通勤距離・職務と関連するか)、会社の社内規則に明確に定めるのがおすすめ。 |
賞与・ボーナス |
場合によって異なるが、「賃金」にあたる可能性が高い |
係争に発展しやすいケース。従業員の評価、労務、職務など一切関係なく、単なる会社からの配当であれば、「賃金」にあたる可能性が低くなるが、通常は従業員の評価、労務、職務などと関連するので、「賃金」にあたる場合が多い。 |
出張手当・旅費 |
通常は「賃金」ではない |
出張の時にしか支払わない場合、「賃金」にあたらない可能性が高い。 |
4、コンプライアンス上の対応策・終わりに
上記を踏まえ、ある給与項目は賃金に該当するか、当該給与の支払い方式(定時・臨時か)と計算のベース(従業員の評価、労務、職務などと関連するか)により、ケースバイケースの判断になります。コンプライアンス上のリスクを軽減するため、いくつかの対応策をお勧めします。
- 給与の支払方式(定時・臨時か)と計算のベース(従業員の評価、労務、職務などと関連するか)を社内規則に明確に定めること。
- 平均賃金が基準になっている給付を決めるとき、法律顧問に確認しておくこと。
- 従業員に給付の金額について疑問を投げられたとき、柔軟な態度で接していくこと(従業員の疑問を無視してしまうと、従業員が主務官庁に告発し、より大きな紛争になることがよく見られます)。
「賃金」である給与項目をボーナス・補助金などの名目で処理すれば、人件費の削減になるかな?
主務官庁・裁判所に「当該給与は賃金に該当する」と認定される可能性が高いです。一時的に経営上のコストが減るかもしれませんが、労使紛争になり主務官庁に罰金を科されるとともに、労働監査をされる可能性も高くなります。長期的に見れば、逆にコストが上がるでしょう。
なるへそ。会社の経営は難しいなあ。
くまのて法律事務所のブログを定期的にチェックしていただければ、心配ございません。きっとくまさんにもわかるようになりますよ。
※本記事は、台湾労働実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言として依拠すべきものではありません。
※労働関連法令は、元々一定の抽象性を持ち、そして様々な要素に左右されるため、主務官庁・裁判所のケースバイケースの判断となります。実際に訴訟が起こされた場合、具体的な状況に応じ、上記と異なる認定が下される可能性が皆無ではありません。具体的な法律問題について法的助言をご希望される方は当ブログ執筆者にご相談頂ければ幸いです。