くまのて法律事務所

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台湾で車輌事故に遭って、人に怪我をさせてしまった時の対応(その3)検察官の取り調べ・保険編

目次

 

1、取り調べが開催されるまでの流れを把握しましょう

前回の記事で警察による事情聴取について説明しました。今回は、その次に検察官が行う取り調べについてお話ししたいと思います。

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警察からの事情聴取が終わったら、すぐ検察官の取り調べに行かないといけないの?

違いますよ。取り調べが開催されるまでの流れは以下のようになります。

  1. 警察が事情聴取と情報収集を終えたら、案件の関連書類を検察官に送ります(いわゆる「送検」です)。特別な事情がない限り、通常1週間以内で終わります。
  2. 送検後、検察官が「車輌事故鑑定委員会(以下、「車鑑会」をいう)」に鑑定を委託します。鑑定結果が出るまでには1~2ヶ月かかります。
  3. 通常、鑑定結果からさらに1ヶ月の調査期間を経た後、検察官が取り調べを行いますが(中国語:偵查庭開庭)、鑑定結果の前に検察官が先に取り調べを行うこともあります。
  4. 検察官が取り調べの期日を決めた後、通知書を送付します。実際の状況に応じて、告訴人が同時に召喚されることもよくみられます。

取り調べの際、検察官は何をするかな。

警察の事情聴取と似ていますね。主に、①事件当時の状況確認、②監視カメラの映像を検証し、双方の意見を尋ねること③調停の意向について双方に尋ねること、という三点です。

なるへそ。取り調べの際は、弁護士に陳述を委ねることができるのかな。

弁護士が補佐として法律上の主張を補足することができますが、全ての事実陳述を弁護士に委ねることはできません。

 

2、鑑定結果と示談交渉の状況は検察官の判断に大きな影響を与える

前に教えてもらったように、起訴・不起訴・起訴猶予の判断(以下、「起訴判断」をいう)は検察官が行うよね。

そうですね。基本、起訴判断は鑑定結果と示談交渉に影響されます。そして、被害者の負傷程度(傷害か死亡か)により、扱い方は異なります。以下は、過失傷害と過失致死に分けて、説明します。

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過失傷害
  1. 台湾法上、過失傷害罪は親告罪にあたるため(告訴人が告訴を提起しないと刑事手続は開始しません)、告訴人(通常は被害者)から告訴の取り下げを取得するのであれば、検察官は不起訴処分を下すことになります。
  2. 告訴人と和解に至らない場合、通常は起訴されます。

自分が事故の主因じゃなく、又は相手が提示した金額が不合理である場合でも起訴されるかな。

和解に至らない場合、検察官は鑑定結果によって判断しますが、前に説明した通り、車両事故において被告が無過失と認定される可能性は極めて低く、過失割合がたった1%であったとしても、通常は起訴されます。

過失致死
  1. 台湾法上、過失傷害罪は非親告罪にあたるため(被害者遺族の告訴がなくても検察官により公訴を提起できます)、被害者遺族と和解に至り告訴の取り下げを取得したにも関わらず、刑事手続は停止しません。しかし、被害者遺族と和解に至った場合、通常、検察官は起訴猶予処分を下します。
  2. 被害者遺族と和解に至らない場合、過失傷害と同じく通常は起訴されます。

3、自賠責保険について確認しましょう

被害者(被害者遺族)との和解交渉がとても大事なのは知っているけど、和解交渉って示談金の支払いだよね。保険とかでカバーすることができるのかな。

台湾においては車やバイクを所有する場合、自賠責保険に加入しなければならないとされています(中国語では「強制汽車責任保險」と呼ばれます)。詳細は、下記にて説明しますね。

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自賠責保険について
  1. 被害者(被害者遺族)の請求できる保険金額について、①被害者死亡前に実際に支払われた医療費(上限額:NTD.20万元)および②死亡補償NTD.200万元、合計NTD.220万元となります。
  2. 自賠責保険の法律上の請求権者は被害者(被害者遺族)となり、被害者が保険会社に通知し保険給付の申請を行うことができますが、被保険人である被告人が先に保険会社に通知し保険金申請に関する状況を把握することをお勧めします。
  3. 保険実務上、請求権者が自賠責保険の保険給付を申し立た後、通常10営業日以内に保険金を受け取ることができます。そして、保険会社に正式な給付証明(請求権者の身分および請求金額などが記載されています)を申請することができます。証拠保存のため、保険会社に申請することをお勧めします。

被害者に支払わないといけない民事損害賠償は、自賠責保険でカバーすることができる?

強制保険法に基づき、当事者間に別途定めがない場合、保険金は損害賠償額の一部とみなすことになりますので、通常はカバーできます。ただし、示談交渉の際、被害者に「保険金は和解金額に含まれない」と要求されることがよく見られます。

じゃあどうやって自賠責保険だけで被害者と早期和解に至るのかな。

残念ですが、自賠責保険金の請求は被害者の法律上の権利ですし、「別途定めがない場合、保険金は損害賠償額の一部とみなす」ことも一般民衆の常識なので、被害者に誠意を示した上で許してもらうしかありません。

そんなヽ(`Д´#)ノ ムキー!!

 「保険金はもらって当たり前。もっともらえないなら、和解したくない」という被害者は一般的だと思いますね。我々弁護士は依頼人の利益を最優先していますが、誠実に実務の状況を伝えないといけませんね。

 

4、対策・終わりに

上記の内容を踏まえ、検察官から不起訴や起訴猶予を取得するために、被害者との交渉がとても重要です。そのため、取り調べでの対応策を以下の通りにまとめてみました。

  1. 取り調べの前、地検所に被害者が召喚されるかを確認する。召喚される場合、その場で示談交渉の準備を整える(和解契約書、告訴取消書など)。
  2. 実際の状況に応じ、可能な示談金額を想定する。

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示談金の範囲はどうなるのだろう。

通常、被害者の損害(治療費、物損、葬儀費用、逸失利益、慰謝料など)と双方の社会経済的地位(職業や収入など)を含めて総合的に考慮することになりますね。また、事故発生地域により異なる部分もあります。ケースバイケースの判断が必要ですので、可能であれば経験ある弁護士にお問い合わせくださいね。