くまのて法律事務所

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試用期間中に解雇したい!台湾法上、試用期間に関する制限

目次

 

1、試用期間の設置は認められる

前回の記事で解雇に関して説明しましたが、その厳しい制限は雇用主にとってはかなり不利だと思う方が少なくないと思われます。解雇が困難であれば、最初から業務に適さない従業員を採用しないようにする対応が重要でしょう。

ほほ。それは試用期間の設置のことだね。

その通りです。試用期間について、現在の台湾の労働基準法および労働基準法施行細則には明記されていませんが、法律上では許容されます。

法律上の定義が存在しないなら、一般的にはどうやって試用期間を捉えればいいのかな。

いわゆる「試用期間」は、雇用主が新規に従業員を雇用後、その従業員が業務にふさわしいかどうかを観察する期間の事です。そして、その試用期間の満了後、当該従業員が適任であるか、会社が判断します。従業員を留任する場合は引き続き雇用し、不適任であると判断した場合は解雇することになります。

引き続き雇用することは、試用期間中でも正社員ってことだよね。そして、試用期間が満了し、不合格と判断された場合、直接辞めさせることができなくて、解雇扱いをしないといけないね。

そうですよ。

じゃ一緒やん!

まあまあ、とりあえず落ち着いてください。最後まで見ていきましょう。

 

2、試用期間の解雇に関する制限は緩和される

実は、使用期間満了後と比べると、使用期間中の雇用主の権利は広く認められています。

ほほ、それはどういうこと。

一番大きいのは、使用期間中の解雇に関する制限が緩和されることです。くまさんもご存知の通り、従業員を解雇する前に二つの要件があります。一つ目は労働基準法に定める要件、二つ目は解雇はやむをえず最後の手段となるべきである(解雇最後手段性)ということです。

うん、わかるよ。あのめんどくさいやつ。

しかし、試用期間中に従業員を解雇しようとする場合、原則として、裁判所が雇用主の解雇権を尊重する傾向にあります。

尊重ということは、やりたい放題じゃないよね。

もちろんです。詳細は以下の通り説明します。

試用期間が満了した後、雇用主は労働基準法第11条に定める「労働者の職務遂行能力が不適格と確証された場合」の解雇事由に基づき、当該労働者を解雇することが可能で、その場合は解雇最後手段性を満たす必要はありません。ただ、労働者を解雇することができても、この場合は労働基準法上の解雇に該当しますので、従業員に解雇手当を払わないといけません。

解雇手当は払いたくないな。雇用契約に「試用期間満了後、職務遂行能力が不合格と認定された場合、退職届を出し、自主退職しないといけない」という条項を設けることができるかな。

残念ながら、そのような条項は実務上よく見られるものなのですが、脱法行為と認められ無効となる可能性が高いです。

 

3、信義則に違反しない限り、試用期間の長さは自由に約束できる

試用期間中の解雇なら簡単にできるようだ。

比較的ね。

試用期間にこんな大きなメリットがあったら、できる限り試用期間を長くした方がいいよね。3年にしちゃおうかな。

それはおそらくできません。

Σ⊙▃⊙川

台湾法において、試用期間に特別な制限はなく、事業特性に応じて雇用主と労働者との間で自由に約束することができます。ただ、試用期間を通して解雇権の乱用があり、信義則に違反したと認められた場合、雇用主と労働者が約束した試用期間の長さが無効とされる可能性があります。

じゃあ使用期間の長さはどのくらいがいいかな。

3カ月間の試用期間が最も普及していると思われますが、実務上、1カ月から6カ月までは許容範囲です。6カ月を超えた場合、信義則違反と認定されるリスクが高くなります。

 

4、コンプライアンス上の対応・おわりに

実務上、新規に雇用した従業員の実際の業務能力が履歴書通りではないことがよくありますので、に採用の際、雇用契約に一定の試用期間を約定することをおすすめします。

試用期間においては、解雇最後手段性である制限が軽減されるので、適任でない従業員の解雇についてはハードルが下がると思われます。しかし、いくら下がったとしても、辞めさせた従業員に不当解雇と主張される可能性は皆無ではありません。そのため、先に説明しました通り、解雇の代わりに、従業員から自主退職の同意を取得し、解雇手当と同額の補償金の支払いをおすすめします。

また、事後従業員に「自ら自主退職への同意という形式ではなく、雇用主に辞めさせられた」と訴えられないよう、やはり「試用期間満了後、職務遂行能力が不合格と認定された場合、退職届を出し、自主退職しないといけない」という条項は雇用契約書に設けないほうがいいでしょう。

なるへそ。試用期間における制限が緩くなっても限度があるね。

なんでもそうだと思いますよ。特に法律は、多くの人の様々な利益を考慮した上で作られたものなので、よりバランスを重視しているかもしれませんね。

(●⁰8⁰●) 勉強になったわ。